柔道の試合などをご覧になったことがある方は、”投げたり、寝転がったりして技を掛けるのが柔道”と思われているでしょう。
確かに今行われている柔道は、投げ技や寝技でポイントを取り、優劣を付けるスポーツという形になっています。
それ故に、現代柔道(=スポーツ)に必要の無い技は省かれることになります。
当身技、今で言えば空手の突きのように相手に拳をぶつける技もその一つで、いつの間にか必要の無いものとして忘れられることになります。
当身はいつどんな時に使われていたのか?
実は柔道の元になった柔術には当身と呼ばれる技がありました。
柔術というと、グレイシー柔術などの寝技を得意とする武術を想像しますが、実は柔術は日本発祥の武術です。
戦国時代には、主に刀で戦っていましたが、刀が取られたり折れたりして使えない場合は素手で戦うしかありません。
しかし、刀相手に柔道のように組みに行くことは自殺行為に等しく、切られてしまうでしょう。
そこで刀を躱して、相手の懐に入り、甲冑の隙間に拳を当てる。
つまりこれが柔術で当身と言われる技になります。
因みに当身は拳だけでなく、蹴りもありますが、相手に手や足を当てる技は、全て当身と呼ばれます。
空手の突きとの違いは何か?
柔術では、当身のみで相手を動けないようにしたり、殺せればいいのですがそう簡単に一撃では倒せません。
当身で相手の動きを止めてから、投げて絞め落としたり、腕を折ったりし、相手が反撃できないようにしてから、脇差で腹や首を刺してとどめを刺す。
これが戦国時代の戦いのポピュラーな戦い方でした。
さて空手の正拳突きとどう違うのかは、目的にあります。
空手が素手で一撃で仕留める、俗にいう一撃必殺なのに対し、柔術は動きを止めること、という目的の違いがあります。
良くわかる例では、空手では瓦などの試割りがありますが、これはいかに一撃で相手にダメージを与えられるかを示すものになります。
対して柔術の当身では、相手の動きを止めることにあるので、投げなどの技に繋げればいいという考え方の違いが表れています。
当身技を試合で使うとどうなる?
さて、今の柔道の試合で、相手の顔を拳で殴ったり、腹にボディーブローを入れたらどうなるでしょうか?
その場合は、拳で殴った方は反則を取られ一本負けになります。
場合によっては、試合に出ることを禁止されることもあります。
今の柔道を考案した加納治五郎先生が、柔術から不必要や危険とされる当身や逆投げ(受け身の取れない投げ方)を排除したので、使ってはいけない事になっています。
それ故に、今の柔道では、当身技を使うことは危険行為と見なされますので、使ってはいけません。
なお、自分勝手な考えで、分からないように使えばいい、などと考えないように。
主審が見ていなくとも、副審が2人居るのですから、必ず見つかります。
制裁は思った以上に重いものになるので、絶対に使わないように。
当身技を実際に見ることはあるのか?
昇段審査の際に、型の練習として当身を教わることがあります。
地域によって違いはありますが、柔術の技として、こういう型がありますよということで、練習させられることもあります。
地方で開催されている、何十年も続いている伝統のある大会では、試合の前にエキシビションとして披露されることもあります。
相手が当身を掛けて来たり、刃物で突いてきたりするのを、払ったりして技を披露することもあるので、勉強だと思って見てください。
当身は時代劇で見られる
最後に余談ですが、当身と言われる技は歴史の長い試合などで見れますが、どんなものか興味がある方は時代劇を見てください。
例としては、水戸黄門でよく、助さん、格さんが素手で相手を倒しているのを見ますが、あれが当身技です。
いろんな時代劇を、そういう観点から注意してみると面白いと思いますよ。